著作権とアテンション

さて、ここから自分の興味の独断で、Webサービスに絞って考えてみる。

そこで、例えば「Google」「はてな」「Twitter」「Lingr」「mixi」等のWebサービスのコードについて。これらのサービスのコードが公開されていないのは、主に「アドバンテージ」と「秘め事」の問題だと思う。本エントリーでは、さらに「アドバンテージ」面に絞って考えてみる。

これらのソースコードOSSとして公開されていたら、第三者は同様のサービスを自由に立ち上げる事ができる。等価なサービス(クローン)を作り放題ということになる。しかし、コードは公開されていなくても、ユーザとしてインターフェイスを見る事は出来る為、時間を掛ければクローンを作成することも難しくはない。

しかし、これらのサービスのクローンが大量発生しない理由は「クローンを作っても、時間的な問題で、アテンション*1を得る事が出来ないから」ではなかろうか。そして、そもそもサービスのコードを公開したくないのは、「クローンによりアテンションを奪われてしまうから」ではなかろうか。オリジナルとクローンのどちらがアテンションを得るのか、これは「先に世に出た方」という要素だけだとは言えないが、その要素は大きいのではないか。

この分野では、作者が欲しがっているのは「著作権」ではなく「アテンション」なのだ。

純粋に「知識の共有」という意味合いでコードを公開することには賛成できるが、それによって先発のアドバンテージ、つまりアテンションを失いたくない。

ところで、先日公開されたAGPLv3というライセンスはGPLの及ぶ範囲がさらに拡大されたもの、と考えることができる。配布だけではなく、Webアプリケーションとしてサービスを公開することも「利用」と位置付け、その場合にもソースコードの公開と自由利用を要求するライセンスである。GPL系のライセンスは、知識の共有を推し進めるが、オリジナル作者に対するアドバンテージが無い。

以上を踏まえて、「知識の共有」を果たしながら、作者に対して「アテンションを得る」というアドバンテージを残したライセシングというのは不可能だろうか。個人的に、このようなライセンスがあれば、是非採用したいものである。

ライセンスの思想

フリーソフトウェア思想

「社会的に有益であれば、人びとがどのような方法でソフトウェアを使うのも自由であるべきです。」(リチャード・ストールマン

この理屈は、以下の段階を経て導き出されている。

  • ソフトフトウェアは、それを複製したり改変したりするのが物質的なものよりはるかに簡単である。
  • デジタル情報の柔軟性そのものが著作権のような制度にはうまくそぐわない。
  • もしあなたが私の書いたプログラムを実行したり変更したりしても、あなたには直接影響しますが私には間接的にしか影響しない。
  • 結局社会には、自由意志による市民間の協力の精神を促進することが必要。-協力は著作権よりも大事。

このように「自由であるべき」だと思う理由って何だろう。

ってところでしょうか。

プロプライエタリ思想

では、ソースを公開して、自由に第三者に利用させたくない理由って何だろう。

  • 苦労して産み出した作品を、簡単に第三者にパクられたくない。
  • 「自分だけが自由に利用できる」というアドバンテージを活かしたい。
  • 裏でコソコソやっている「秘め事」を公開したくない。

という点だろうか。つまり、そのソフトウェアをフリーとすると、発明を行ったり、それを事業に結びつける意欲を失い、その結果、発明が社会的に活用されないという考え方。

特許の考え方

仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明が他人に模倣されてしまうために、発明者は発明を秘密にし、その結果、発明が社会的に活用されないことになる。このため、新規で有用な発明を世の中に提供した代償として、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説。(公開代償説)

これが一番広く支持された説らしい。

所有権が認められるもの

所有権は主に「価値があるもの」に対して認められて来た。古くから「物質」についての所有権があった。次に「著作物」というものに所有権が認められる。

しかし近年、「物質」「著作物」に続いて、もう一つの「価値があるもの」がクローズアップされてきた。Webサービスであればコミュニティであろう。全く等価なサービス(著作物)が複数あったとしても、ユーザー数が多く、人が集まるサービスが一番の価値を持つ。これをもうちょっと一般化して、今後は「アテンション」(注目)と呼ぶことにする。

現在のところ、この「アテンション」に関して所有権は認められていないと思われる。

具体例

とある人格Aが、著作物であるプログラムPを書く。その瞬間、AにはPに関する著作権が発生し、そのプログラムを自由に使用・利用することができる。

また別の人格Bが、Pを適法に入手する。その時、BはPを使用することができる。これにAの許諾は必要ない。ただし、BはPを利用することはできない。BがPを利用する為には、AによるライセンスLが必要である。

ライセンス関係の用語定義

対象

著作物
著作権の対象となる知的財産。ここでは主に「プログラム」の事について議論する。プログラムが著作物であることは議論の余地なし?

主体

人格
権利能力(権利・義務の帰属主体となり得る資格)を持つ主体。自然人・法人に分かれる。自然人は生物学的なヒトであり、産まれながらにして権利能力を有する。法人は、法律の規定により「人」として権利能力を付与されたものをいう。この権利能力により、著作権者になりうる。

権利

著作権
知的財産権の一種、著作物の創作者である著作者に保障される権利の総称。著作者人格権と著作財産権に分けられる。
著作者人格権
日本では、著作者個人が専有し、譲渡、相続することができない。
著作財産権
創作の時点で著作者個人が専有するが、譲渡、相続することができる。

ライセンス

ライセンス
権利者が独占する権利の実行を他者に許諾するもの。ライセンスについて契約と言われることが多いが、法律用語としての "license" は、それなしには違法となる行為を許すこと、または、それを証明する書面のことをいいい、契約という形態を採るか否かとは無関係の概念。契約説と不行使宣言説がある。
契約
相対立する意思表示の合致によって成立する法律行為。思いっきり簡単に言えば「約束する」ということ。

使用と利用(違い重要)

使用
ユーザーが入手したプログラムを実行する事。本来、プログラムの著作物については、著作権の内容にはプログラムの実行は含まれていない。したがって、ユーザーがプログラムの複製物を適法に入手した場合、プログラムの実行自体には別途著作権者からライセンスを得る必要はない。

本を読む、音楽を聴く、映画を観る、ソフトウェアを実行することは、著作物の使用にあたります。

利用
ソフトウェアのソースを含めた複製権、翻案権、公衆送信権など、著作権者に認められる権利を行使する事。これらの権利は、最初は著作者のみに帰属するもので、著作権者から許諾を受けて初めて第三者が行使することができる。

本を印刷・出版・修正する、音楽を録音・演奏・修正する、映画を配給・上映・修正する、ソフトウェアを複製・配布・改変することは、著作物の利用にあたります。

ソフトウェアライセンス

最近ご無沙汰の日記です。環境もひとまず不自由を感じない程度に復活しました。あと、java-jaの発表内容を考えていて、日記をサボってましたw

ところで、先日twitterで話題に上った「ソフトウェアライセンス」について、自分的にちょっとまとめてみたくなったので、落ち着き次第、そんなことを色々調べ上げてみようと思っています。というわけで、Licenseカテゴリを新設。

オープンソースが盛り上がる昨今、ソフトウェア使用・利用に関するライセンス契約については今ひとつ知識が浸透していない様に感じます。OSSは無料で自由に使える魔法のソフトウェア、という幻想さえもこの世の中には蔓延しているように感じるのです。

私にとっては、昔から法律は嫌いな分野ではないので、ちょくちょく調べながらここまで来ましたが、体系的にしっかり理解しているとは言い難い状態です。というわけで、ライセンス契約の基本から、世にある色々なライセンスの比較・分析などを、自分なりにやってみようと思った次第です。

と、思って書籍を探してみると、ソフトウェアライセンス(特にOSSライセンス)に関してまとめてあるものって、ほとんど無いんですね。いかに「考えられていない」のか、ということの現れなのでしょうか。

まだまだ私にとっても「まとめてみよう」という段階なので、ここに書ける事は少ないのですが、wikiを使ってまとめて行こうと思っています。今後、色々間違った事も書くかもしれませんが、その時はご指摘下さい。

「ソフトウェアライセンス勉強会」なんてのもあったら面白いなー、なんて思ってます。自分があまり知らないので、主催する勇気はまだ持てませんがw